夏休み二日目、娘を泣かす

娘の結婚
08 /12 2017
「明日は彼のところに泊まるから」
昨夜遅く、娘が突然言った。
「だからチビ犬お願いね」

この休みの間に彼のところに泊まりに行く計画を、私は聞いていなかった。

「だってさ、焼肉食べに行く時間、私は昼だと思ってたんだけど
夕方からだっていうんだもん、そこからうちに帰ると遅くなるしさ、
彼氏の家に泊まるほうが便利で疲れないしさ」

焼肉が昼か夜か、なぜ事前にはっきりさせておかなかったのか、
お互いが思い込みのままで確認せずにいたのはどうしてか、
あなたたちはどうしてお互いの言い分を明確にしておかないのか、
曖昧なままでずるずると行動するのは個人の範囲内でやってくれないと困る、
もしも私にも予定があったら犬はどうするつもりだった、
そもそもあなたはまだ嫁に行っていない、
彼はどうして当たり前のように家に泊まれなどというのか、
しかも突然それを言ってくるのはどうしてだ、
私たち親に対して礼儀を失しているとは思わないのか。

・・・・娘は私の背中側にまわり鏡台の前で
スマホをいじりながら黙り込んでしまった。

私は平然とテレビを見ている。
吉幾三が酔っ払ってダウンタウンと坂上忍を相手に面白い。
言うだけ言ったので、もう知らんから、と決め込んでいた。

「あのね、彼はねいつも突然言うわけじゃないんだよ、
ちゃんと前から予定を立ててあるんだけどね、
私がね、ぎりぎりまでママに言わないの、
怒られるだろうな、いやだな、と思ってね、言えないの」

「遅く言っても結局嫌な顔されるんだけどさ、
でも怖くって、言えないんだ。
明日の焼肉が夜だって言うのは今日わかったんだけど、
泊まりにおいでって前から言われてたの」

結局怒られるってわかってるなら、ちゃんと覚悟して言いなさい。
あなたが突然言うせいで彼まで悪者になっているんだから。

娘は涙を拭きながら二階へ上がって行った。

・・・・・自分が死んだ父と同じに思えた。
娘は私が怖くて事実を告げられないと言った。
25歳の娘が、いまだに私をそこまで怖れていた。
きっと私の怒りは父のそれに通じるところがあるのだろう。

到底子供に向けるものではないほどの迫力で怒りを爆発させていた私の父
私は父が怖くて怖くて、いつも怯え、逃げ回り、いい子のふりをして身を守ってきた。
結婚し父の家から完全に離れ、自分の居場所を得たときから
私には父は怖いものというより、ただ厄介で、面倒くさいだけの存在になった。
父は相変わらず怒りを抑えずに爆発したが
そのころの私は、ただ面倒を避けるためだけに大人しいふりをした。
父に関することはすべてがもうどうでもよく、
死期の近い父に対しても真摯な感情は一切湧くことがなかった。

私は今すぐに娘に向けてきたこれら怒りを捨て去らなければ、
消滅させなければならないと思った。
娘が社会人になってしばらくした頃に1度、親業から卒業するぞと決めたのに
最近結婚式や新居の準備など、
多くのやるべきことが遅々として進まない娘に対して、
私はイライラを溜め込んで、ついついあれこれと文句を口にしていた。
私はきっと怒りの父と、感情的な母を全身で表現していたに違いない。

小さな子なら叱ったり怒ったりで言うことを聞くが、大人は違う。
私が怒れば怒るほど娘は逃げるか、あるいは無関心になりつつ
面倒を避けることだけを考えるか、そのどちらかになるだけだ。

猛省した。
早朝、娘の部屋に行くと、娘はすでに起きていた。
半分寝ぼけているかもしれない娘に向けて
床に座り、額を床につけて詫びた。
娘は寝ぼけてなんかいなかった、すぐにぼろぼろ泣き出した。

出来るだけ一生懸命に謝り続けた。
娘がかわいそうで、私まで泣きそうになった。
何年か前にも同じことがあって、私はあの時も、もうするまいと思ったのだ。
なのに。

そして今、夕方5時40分。
娘は彼氏と焼肉に行き、今夜泊まって来る。
もうすぐチビ犬の散歩の時間になる。
スポンサーサイト